
1993年公開の『ピアノ・レッスン(The Piano)』は、ジェーン・カンピオン監督によるニュージーランドを舞台にした人間ドラマ。主演はホリー・ハンター(エイダ)、ハーヴェイ・カイテル、サム・ニール、アンナ・パキン。
19世紀、言葉を発しない女性エイダが娘とともにスコットランドからニュージーランドへ嫁ぐ。彼女にとって唯一の「声」はピアノ。その音楽を通して、彼女は自分自身の感情と自由を取り戻していく――。
この映画はセリフが少なく、静寂と音楽の間で物語が語られるため、英語の「声にならない表現」を味わう作品ともいえます。
“The voice you hear is not my speaking voice, but my mind’s voice.”
(あなたが聞いているのは、私の話す声ではなく、心の声です。)
エイダが最初に語る印象的なモノローグ。
・speaking voice:「話す声」
・mind’s voice:「心の声」=“内なる言葉”
・not A, but B:「AではなくB」=明確な対比表現。
Not fear, but love guided her.(彼女を導いたのは恐れではなく愛だった。)
詩的で、静かな強さを感じるフレーズ。話せない主人公の“語り”が、映画全体のトーンを象徴しています。「心の声」という日本語訳も美しいですが、英語の “not my speaking voice, but my mind’s voice” の対比構造がより印象的です。
“At night, I think of my piano in its ocean grave, and sometimes of myself, floating above it.”
(夜になると、海の底に沈んだ私のピアノのことを思う。そして時々、自分もその上を漂っている夢を見るの。)
後半の象徴的なナレーション。
・think of …:「〜のことを考える」
・ocean grave:「海の墓」=ピアノを“亡骸”のように描く比喩。
・floating above it:「その上を漂う」=彼女の魂の解放を示唆。
英語の比喩(metaphor)の美しさを堪能できる一文。詩的なセリフを英語のまま読むと、波のようなリズムを感じられます。
こんな人におすすめ
・感情や雰囲気で映画を味わいたい人
→ 台詞よりも“空気感”で理解できるから、リスニングに苦手意識がある人でも楽しめます。
・文学的・詩的な英語が好きな人
→ セリフやナレーションがすべて詩のようで、美しい比喩表現が多いです。
・女性の生き方や自由のテーマに興味がある人
→ エイダという人物の内面の変化は、現代にも通じる力を持っています。
・静かな映画に癒されたい人
→ 派手な展開はないけれど、波の音やピアノの旋律が心を洗うように美しいです。
まとめ
『ピアノ・レッスン』は、言葉ではなく“音”と“沈黙”で語る愛の物語。
・英語は静かで詩的、少ない言葉に深い意味が込められている
・比喩表現・モノローグ英語の美しさを味わえる
・英語学習者には 中〜上級者向け(ナレーションのリズムと表現を楽しみたい人におすすめ)
“The voice you hear is not my speaking voice, but my mind’s voice.”
この一言が、まさに映画全体のテーマ――“言葉を超えたコミュニケーション”――を象徴しています。