映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のセリフに学ぶ英語のイディオム

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2016年公開の映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー(Manchester by the Sea)』は、ケネス・ロナーガン監督による人間ドラマ。主演はケイシー・アフレックで、彼は本作でアカデミー主演男優賞を受賞しました。

物語は、兄の死をきっかけに故郷マンチェスターへ戻ってきたリー・チャンドラーが、甥の後見人になることを通して過去の悲劇や罪と向き合う姿を描きます。愛する人を失った悲しみや「赦し」をテーマにした静かで重厚なドラマです。

この映画で英語学習をする面白さは、派手な台詞回しではなく、静かでリアルな日常会話のリズムを聞けるところ。感情を抑えた会話や、口語的な省略表現が多く、実践的なリスニング練習になります。

“I can’t beat it. I can’t beat it.”

主人公リーが、自らの心の痛みについて語るシーンで出てくる印象的な言葉。

“I can’t beat it. I can’t beat it.”
(勝てないんだ。どうしても乗り越えられないんだ。)

ここでの beat は「打ち負かす」という意味ですが、比喩的に「克服する」「乗り越える」というニュアンスで使われています。リーが抱える過去の罪悪感や絶望感を、短いフレーズで繰り返すことで、その深さと重さを強調しています。
日本語字幕では「克服できない」「どうしてもダメなんだ」といった形で訳されます。
原文は非常にシンプルですが、繰り返しの強調によって英語ではより心に迫る表現となっています

“There’s nothing there.”

もう1つ紹介したいのは、リーが過去を振り返りながら、自分の心の中を語る場面でのセリフ。

“There’s nothing there.”
(そこにはもう何もないんだ。)

“There’s nothing there.” の、「何も残っていない」「そこにはもう何もない」というシンプルな言葉に、空虚さや喪失感が込められています。
こうしたフレーズは、英語学習者にとっては難しくない構文ですが、感情を込めて使うと一気に表現力が深まる良い例です。日本語にすると淡々としていますが、英語では 短い言葉+抑えたトーン が、かえって強い感情を伝えます。

英語表現としてのワンポイントアドバイス

beat :「叩く」「打つ」だけでなく、比喩的に「困難に勝つ」「克服する」という意味で使える。
 例:I can’t beat this habit.(この習慣がどうしてもやめられない。)
繰り返し表現:感情的に揺れている時、英語では同じ言葉を繰り返すことで心情を表すことが多い。
there’s nothing …:「何も〜がない」という基本的な表現。
 例:There’s nothing we can do.(僕たちにできることは何もない。)

*どちらも日常的に使う基本表現ですが、文脈と感情によって重みが大きく変わります。また、リスニングやスピーキングの練習で「繰り返し」を意識すると、表現力が豊かになります。

まとめ

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は、派手な演出ではなく「沈黙と間」で心情を描く映画。英語表現も、短いフレーズに大きな感情が込められています。

英語学習の観点では 上級者向け
・省略や早口が多い日常会話を聞き取る練習になる
・「beat」のようなシンプルな単語が比喩的に使われる場面が多い
・英語の「少ない言葉で深く伝える」力を実感できる

“I can’t beat it.” と “There’s nothing there.” は、短いけれども人間の苦悩と空虚を伝える名セリフ。英語を学ぶ上で、シンプルな表現が持つ奥深さを体感できるはずです。

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